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意識が浮遊する感覚と少しの眩しさに、僕はゆっくりとまぶたを開けた。
(ここ……どこだ?)
知らない布団の感触に、ふと疑問に思う。
視界に写るのは、窓から差し込む日光に照らされた、見覚えのある天井と壁。なのに、周囲にある調度品は、知らない物ばかりだった。
「痛っ……!」
頭が痛み、思考を邪魔してくる。昨夜は、行きつけのバーで飲んでいた。もしかしなくても、飲み過ぎたのだろう。久しぶりの二日酔いに、僕のテンションは急降下だ。
とりあえずベッドから出ようとして、僕は違和感に気づいた。普段はあるはずの、布の感触がない。
「……は?」
布団の中を確認して、思わず、声が出てしまった。
あり得ないことに、僕はパジャマはおろか、下着すら着ていなかった。熱帯夜でさえ、Tシャツに短パンは着ているというのに。しかも、自宅ではないだろう場所で、だ。
(いやいやいや……さすがに、あり得ないって! これは……そう、夢だ! 夢!)
なんて現実逃避をしながら、僕はもう一度、布団の中を確認する。
「マジか……」
視界に写るのは、素肌のままの下半身。少し手前に視線を移せば、上半身も見えてくる。けれど、やはり何も着ていない。この事実は、間違いようもなかった。
なぜ、どうして……。そればかりが、頭の中を駆け巡る。
「とりあえず、落ち着け!」
深呼吸をして、室内を見回す。男物のジャケットが数着、壁にかけられている。けれど、自分の物ではない。普段、僕はジャケットをクローゼットにしまっているからだ。
頭痛に耐えながら、視線を床の方へと滑らせていく。艶のあるフローリングには、埃一つ落ちていなかった。きれい好きな人が家主なのだろうと思い、見覚えのある木目には気づかない振りをした。フローリングなんて、どれも同じような木目のはずだと、考えるのを放棄する。
ベッド脇を見ると、一人分の服が脱ぎ散らかされていた。間違いなく、僕の服だった。
そそくさと服を着る。少しだけほっとしたところで、尻の内側にある違和感に気がついた。何かを擦りつけたような、そんなしびれ。
(何だろう? これ……)
どうにも気になる。でも、痛みがあるわけではない。
落ち着かないけれど、一旦、意識の外に追いやって、部屋を出ることにした。
扉を出た瞬間、隣の部屋から物音が聞こえてきた。おそらく、リビングかキッチンだろう。僕の他に、誰かがいるのは確実だ。
緊張と未知の恐怖に強張る体を解すように、僕は小さく深呼吸をする。覚悟が決まったところで、隣室に繋がる扉を開ける。
「あ! おはよう」
僕よりも背の高い男が、振り向いて笑顔を見せる。目鼻立ちのはっきりしている、いわゆるイケメンだった。二枚目の若手俳優にでもいそうな雰囲気がある。おそらく、この家の主だろう。右側にあるカウンター型のキッチンから、二人分のカップをテーブルに持ってくるところだった。
「おはよう、ございます……」
僕は、反射的にそう返していた。
栗色の髪の見覚えのない男。それも、自分より若いだろう彼を前に、僕は必死で記憶を掘り起こそうとする。最近、入社したばかりの後輩か、それとも取引先の誰かか。いずれにしても、僕の記憶の中にはいない人物だった。
「何で、そこで突っ立ってるのさ? こっちにおいでよ」
笑いながら、男が声をかけてきた。
彼は、部屋のほぼ中央にあるテーブルの向かい側に座っている。何気ない日常風景のはずなのに、ドラマのワンシーンのように思えてしまった。彼の雰囲気が、そう思わせるのかもしれない。
混乱する中、僕はその場から動けなかった。彼が誰なのか。ここがどこなのか。そもそも、なぜ僕がここにいるのか。疑問だらけで、上手く思考がまとまらない。おまけに、頭痛はまだ居座っている。
「朝飯作ったから、一緒に食べようぜ」
と、彼がにこやかに誘ってくる。
テーブルの上に視線を向けると、二人分の朝食が準備されていた。出来立てなのか、白い湯気が立っている。
どうしようかと逡巡する間もなく、僕の腹が大音量で鳴った。
「あ……」
気づいた瞬間、恥ずかしくて顔が熱くなる。
(マジか……。この状況でも腹減るとか、どんだけだよ)
僕は、内心、自分にツッコミを入れた。穴があったら、すぐにでも入りたいくらいだ。
「あっはは、体は正直ってか! 悩むのは、腹ごしらえしてからでもいいんでない?」
豪快に笑ったかと思うと、彼は優しくたずねてくる。
この状況で断るのも何だか気が引けて、僕はご相伴にあずかることにした。彼の対面に座ると、ほかほかのご飯と形のきれいな卵焼きとしじみのみそ汁が、僕を待ち構えていた。
「……いただきます」
緊張しながらつぶやいて、僕は食事に手をつける。
朝食は、どれも優しい味わいで、二日酔いの僕にはとてもありがたいものだった。
「めっちゃ、美味そうに食べるじゃん」
と、対面にいる彼が、優しい微笑みを浮かべている。
「……っ! 何だか、がっついてるみたいでみっともないですよね。すみません」
急に恥ずかしくなった僕は、進む箸を止めて頭を下げた。
「いや、別にいいって。ただ、佳晴《よしはる》さんが、元気になったみたいでよかったなって思ってさ」
彼はそう言って、卵焼きを一切れ口に入れた。
(……ん? 名前、呼ばれた?)
彼の今の発言に、僕は少し引っかかった。
「あの……どうして僕の名前、知ってるんですか?」
箸を置いて、僕は目の前の男に問いかけた。
少し、警戒しているような声音になってしまったかもしれない。でも、それもしかたがないだろう。面識のない人物なのだし、名前を教えた記憶もないのだから。
「あれ? もしかして、覚えてない? 昨日の夜、あんたが教えてくれたんだぜ? 相馬《そうま》佳晴さん」
「え? 僕が教えた……?」
予想していなかった事に、僕は愕然とする。
「ちなみに、俺は相沢《あいざわ》竜希《たつき》でーす」
よろしくと、彼は自己紹介した。
(確かに、聞いたことがあるような……?)
そう思って、昨日の事を思い返してみる。
昨日は、仕事から帰ってきて、自宅近くにある『篝火《かがりび》』というバーを訪れた。帰宅後、篝火に行って一杯引っかける、それがここ最近の僕の楽しみだった。
店内は、落ち着いた雰囲気で、ついつい長居してしまう。確か、昨日も一杯だけのつもりが、結構な数のグラスを空けていたような気がする。
「――っ!」
記憶を漁っていると、急に鋭い痛みがこめかみ辺りに走った。僕は小さく呻いて、反射的に左手を頭にやる。
「大丈夫かよ!?」
と、目の前の彼が心配そうに声を上げた。
「だ……大丈夫、です。二日酔いなだけで……」
無用な心配をさせないために、僕はわざと明るく振る舞った。つもりだった。でも、結果としては、彼――相沢さんの表情は、ほとんど変わらなかった。
失敗したかとも思ったけれど、どうしようもできない。今は、痛みに耐える方が先決だった。
目を閉じて深呼吸を繰り返す。しばらくすると、痛みは消えていった。
「本当に大丈夫?」
相沢さんの気遣う声で、僕はゆっくりと目を開ける。
「ええ、もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」
申し訳程度に謝罪して、僕は残っている料理を平らげる。
ごちそうさまでしたと告げると、相沢さんは真顔で、
「ねえ、本当に何も覚えてないの?」
「すみません。篝火で飲んでいたのは、かろうじて覚えてるんですけど、それ以上の事は……」
言葉を濁して、僕は目を伏せた。
昨日の夜、いったい何があったのか、知りたい気持ちはある。でも、実際に聞くのは怖かった。自分が、何か酷い事をやらかしてしまっていたらと思うと、気が気ではない。
「そっか、なるほどね……」
そうつぶやく相沢さんの声は、意外にも明るかった。何かを思案しているようにも聞こえる。
「じゃあ、俺の部屋で、あんな事やこんな事をした記憶もないわけだ?」
挑発するような、揶揄《からか》うような彼の声音に、僕は反射的に視線を向ける。
「……あんな事やこんな事?」
どこか不穏な響きに、無意識に警戒してしまう。
「ああ。俺的には、めっちゃ濃密な一夜だったんだけど?」
と、相沢さんは、わずかに目を細めて僕を見つめてくる。
ねっとりとした視線に、一瞬、呼吸ができなくなった。初めて向けられた視線のはずなのに、僕は
(な、んで? こんな感覚、知らない……。何だよ、これ!?)
訳がわからなくて、僕は混乱する。
「へえ? これだけで、そんな反応するんだ? ふふっ、かーわいい」
興味深いと、彼がつぶやいた。
その低めの声とちらりと見えた舌先に、僕の下半身がひくりと反応した。
「貴方……僕に、いったい何をしたんですか!?」
荒い息を繰り返しながら、僕は相沢さんを睨みつける。
けれど、思っていた効果はなかったらしい。
「特には何も? 強いて言うなら、昨夜は熱い夜だったってことだけかな」
と、相沢さんは、涼しげな笑顔で言った。
その爽やかさの中に、妖艶な色が混ざっているのを、僕は感じ取っていた。一瞬、脳裏に本性をさらけ出した彼の姿が写る。
「あ……や……いや、だ……!」
僕は、うわ言のようにつぶやいて、熱を帯びる体を引きずって立ち上がる。
その間、相沢さんは何も言わず、観察するように僕を眺めている。
(何だよ、これ……?)
彼の視線と声に、知らないはずの記憶に、僕の体は昂ぶっていく。自分が自分ではないような気がして、怖い。
「もしかして……俺の事、煽ってる?」
小首をかしげて、問いかけてくる相沢さん。口角を上げ、舐めるように僕を見る。
穏やかな物言いなのに、どことなく危険な香りがする。
「そ、んなこと……っ!」
ないと断言はできなかった。のどが詰まり、言葉が出ない。
(このままじゃ……本気でやばい!)
そう思った僕は、視線の呪縛を断ち切るように目を閉じた。一瞬だけれど、燻った熱が落ち着きを取り戻したような気がする。
「すみません! ごちそうさまでした!」
目を開けた僕は、相沢さんから視線をはずして早口でそう言った。
「え? あ……」
彼が、何かを言いかけていたけれど、構っている余裕はない。部屋の入り口付近に立てかけられていた荷物を持って、僕は足早にその場を後にした。
あのままずっと、あの場所にいたら、確実に彼のペースに流されていただろう。それほど妖しい雰囲気が、室内を満たしていた。
玄関を開けると、手すりがついた廊下に出る。見覚えのある色の手すりだったけれど、気にしている余裕は僕にはなかった。早くこの場所から逃げたい、それだけだった。
廊下を進み、階段を駆け降りる。段差を降りる度に、服が敏感な肌をさわさわとなでていく。その感触に反応して、僕自身が反り立っていくのを自覚した。
「くそっ……!」
収まらない劣情に嫌気が差し、悪態をついた。
地面に降り立ち、正面を向いたところで愕然とした。目の前には、見慣れた駐車場と僕の車がある。
「う、そ……だろ?」
振り向くと、自宅があるアパートだった。
目が覚めた時から今まで、見ない振りをしていた見覚えのあるもの達が、現実を容赦なく突きつけてくる。
自宅が目と鼻の先にあるというのに、こんな失態を犯してしまった。その事実に、僕は打ちのめされていた。一階にある自宅に向かう足取りが、とても重い。
自室に着くと、疲労感が一気に押し寄せてきた。着替える気力もないまま、ベッドに倒れ込む。
僕の手は、無意識に下半身に伸び、直に自分自身に触る。それをきっかけに、昨夜の記憶が断片的に蘇る。
篝火の店内。空のカクテルグラス。ウェイター姿の相沢さん。薄暗い彼の部屋。彼の息遣い。
『……イっちゃえ』
ふいに、相沢さんの低く甘い声が、脳内にこだました。
「……っ! くっ……!」
無意識に記憶していた声にうながされ、僕は呆気なく果ててしまった。
息を整えつつ、後始末をする。
「どうして……」
つぶやいたけれど、それは誰に向けたものだったのか。続く言葉が言えないまま、僕は静寂が包む室内で肩を落とす。
どうして、彼の誘いを受けてしまったのか。流されるまま身を委ねて、記憶を飛ばして、触れられていないのに欲情して――。
深いため息とともに、後悔の念が押し寄せる。けれど、緩急をつけて僕自身を追い詰める彼の指の動きが脳裏に浮かぶ。手でされただけで達してしまったのは、もしかしたら、初めてかもしれない。
「……っ! また……!」
思い出しただけで、僕自身が緩く勃ち上がる。こんな事、今まで一度だってなかったのに。
(くそっ! な、んでっ……こんなに反応してんだよ!)
心の中で悪態をつきながら、熱を逃がすように自身に触れた。
(いや、まさか、そんな……あり得ないって!)一瞬、頭によぎった可能性を、僕は全力で否定してカクテルを煽るように飲む。ライチの爽やかな香りが、脳内をクリアにはしてくれる。けれど、目の前にある鍵の処遇については、何の解決策も浮かばなかった。僕は小さくため息をついて、他の席を眺める。カウンター席には、僕の他に一人の男性が座っていた。ボックス席の方に視線を向けると、カップルや友達同士らしい客が複数人いる。そんな中、一番奥の席に相沢さんの姿があった。(あ、いた!)鍵を返しに行こうと、席を立ちかける。けれど、彼の対面に肩を落とした女性が座っているのが見えた。(そういえば、マスターに何かお願いされてたっけ)座り直した僕は、相沢さんとマスターの先ほどの会話を思い返す。確か、相沢さんを指名していたような気がする。何をしているのだろうと眺めていると、相沢さんとその女性は、会話をしているだけのように見えた。ただ、楽しんでいるようには見えない。どうやら、彼女は、相沢さんに何かを相談しているらしい。マスターが彼に頼んでいたのは、客の相談に乗ってほしいというものだったようだ。(へえ。カウンセラー的な立ち位置なのか)なるほどと、様子をうかがう。次第に、女性の表情が、暗いものから明るいものへと変わっていく。きちんと相手に向き合っているようだ。そんな姿を見てしまったら、会話に割り込むだなんてできるはずもない。夜のお誘いをする口実だと思っていたのに。彼は、僕が思っているよりも誠実な人なのかもしれない。(昨日の夜の事は、魔が差しただけ……だよな。うん、きっとそうだ)と、僕は自分を納得させる。個人的に話がしたいというのも、言葉通りの意味なのだろう。そう考えた僕は、彼の手が空くまで待つことにした。けれど、そんな時間はやってこなかった。カクテルとローストナッツの量だけが増えていく。彼が僕の近くを通りすぎる度に声をかけようとして、やめた。仕事の邪魔はしたくない。僕は、
脳内に浮かぶ彼の指使いに合わせながら、僕は自身に指を這わせる。優しくなで、時に激しく上下させる。自分で触れているはずなのに、彼に触れられているように感じた。錯覚なのは、わかっている。けれど、彼に出会う前の自慰よりも快楽を感じていた。何度目かの絶頂の後、僕は荒い息のまま脱衣所に向かった。収まることを知らない下半身の疼きから、解放されたかった。肌に擦れる布の感触が、完全には引いていない熱を呼び戻す。敏感すぎる感覚を恨めしく思いながら、僕は服を脱いで風呂場に入った。熱いシャワーを頭から浴びていると、体内に残っている衝動がゆっくりと鎮まるのを感じた。シャワーの音を聞きながら、あれは事故だったのだと、心の中で自分に無理矢理、言い聞かせる。ざわついていた心が落ち着きを取り戻し、僕はシャワーを止めた。その瞬間、背中を水滴が流れ落ちていった。背筋を這う相沢さんの指の感触が、一気に蘇る。「ひぅっ……!」思わぬ声が漏れ出て、咄嗟に口に手を当てる。「くそっ……!」悪態をつき、頭をかきむしる。シャワーだけでは、解放されないのか。(……そうだ! ジムに行こう!)こういう時には、体を動かすのが一番いい。おろし立ての服に着替えた僕は、車で馴染みのジムに向かった。ジムの受付で会員証を見せて、更衣室に移動する。持ち込んだ服に着替えて、トレーニングスタジオに入ると、いつもより利用客が多い。今日が土曜日だから、というのもあるのだろう。「相馬さん、こんにちは! 今日は、どんなメニューにしますか?」背の高い男性に声をかけられ、わずかに肩を震わせた。のどが締まり、息が止まる。「……こんにちは」僕は、何気ないふうを装って、にこやかにあいさつを返した。ぎこちない笑顔になってはいないかと、気が気ではない。でも、彼は気づいていないのか、僕の様子には触れなかった。声をかけてきた男性は、インストラクターの九条《くじょう》さんだ。僕が初めて
意識が浮遊する感覚と少しの眩しさに、僕はゆっくりとまぶたを開けた。(ここ……どこだ?)知らない布団の感触に、ふと疑問に思う。視界に写るのは、窓から差し込む日光に照らされた、見覚えのある天井と壁。なのに、周囲にある調度品は、知らない物ばかりだった。「痛っ……!」頭が痛み、思考を邪魔してくる。昨夜は、行きつけのバーで飲んでいた。もしかしなくても、飲み過ぎたのだろう。久しぶりの二日酔いに、僕のテンションは急降下だ。とりあえずベッドから出ようとして、僕は違和感に気づいた。普段はあるはずの、布の感触がない。「……は?」布団の中を確認して、思わず、声が出てしまった。あり得ないことに、僕はパジャマはおろか、下着すら着ていなかった。熱帯夜でさえ、Tシャツに短パンは着ているというのに。しかも、自宅ではないだろう場所で、だ。(いやいやいや……さすがに、あり得ないって! これは……そう、夢だ! 夢!)なんて現実逃避をしながら、僕はもう一度、布団の中を確認する。「マジか……」視界に写るのは、素肌のままの下半身。少し手前に視線を移せば、上半身も見えてくる。けれど、やはり何も着ていない。この事実は、間違いようもなかった。なぜ、どうして……。そればかりが、頭の中を駆け巡る。「とりあえず、落ち着け!」深呼吸をして、室内を見回す。男物のジャケットが数着、壁にかけられている。けれど、自分の物ではない。普段、僕はジャケットをクローゼットにしまっているからだ。頭痛に耐えながら、視線を床の方へと滑らせていく。艶のあるフローリングには、埃一つ落ちていなかった。きれい好きな人が家主なのだろうと思い、見覚えのある木目には気づかない振りをした。フローリングなんて、どれも同じような木目のはずだと、考えるのを放棄する。ベッド脇を見ると、一人分の服が脱ぎ散らかされていた。間違いなく、僕の服だった。そそくさと服を着る。少しだけほっとしたところで、尻の内側にある違和感に気がついた。何かを擦りつけたような、そんなしびれ。(何だろう? これ……)どうにも気になる。でも、痛みがあるわけではない。落ち着かないけれど、一旦、意識の外に追いやって、部屋を出ることにした。扉を出た瞬間、隣の部屋から物音が聞こえてきた。おそらく、リビングかキッチンだろう。僕の他に、誰かがいるのは確実だ。緊張と