Share

プライベートレッスン~大人の恋愛講座~
プライベートレッスン~大人の恋愛講座~
Author: 倉谷みこと

第1話 知らない熱の余韻

last update publish date: 2026-02-11 16:10:49

意識が浮遊する感覚と少しの眩しさに、僕はゆっくりとまぶたを開けた。

(ここ……どこだ?)

知らない布団の感触に、ふと疑問に思う。

視界に写るのは、窓から差し込む日光に照らされた、見覚えのある天井と壁。なのに、周囲にある調度品は、知らない物ばかりだった。

「痛っ……!」

頭が痛み、思考を邪魔してくる。昨夜は、行きつけのバーで飲んでいた。もしかしなくても、飲み過ぎたのだろう。久しぶりの二日酔いに、僕のテンションは急降下だ。

とりあえずベッドから出ようとして、僕は違和感に気づいた。普段はあるはずの、布の感触がない。

「……は?」

布団の中を確認して、思わず、声が出てしまった。

あり得ないことに、僕はパジャマはおろか、下着すら着ていなかった。熱帯夜でさえ、Tシャツに短パンは着ているというのに。しかも、自宅ではないだろう場所で、だ。

(いやいやいや……さすがに、あり得ないって! これは……そう、夢だ! 夢!)

なんて現実逃避をしながら、僕はもう一度、布団の中を確認する。

「マジか……」

視界に写るのは、素肌のままの下半身。少し手前に視線を移せば、上半身も見えてくる。けれど、やはり何も着ていない。この事実は、間違いようもなかった。

なぜ、どうして……。そればかりが、頭の中を駆け巡る。

「とりあえず、落ち着け!」

深呼吸をして、室内を見回す。男物のジャケットが数着、壁にかけられている。けれど、自分の物ではない。普段、僕はジャケットをクローゼットにしまっているからだ。

頭痛に耐えながら、視線を床の方へと滑らせていく。艶のあるフローリングには、埃一つ落ちていなかった。きれい好きな人が家主なのだろうと思い、見覚えのある木目には気づかない振りをした。フローリングなんて、どれも同じような木目のはずだと、考えるのを放棄する。

ベッド脇を見ると、一人分の服が脱ぎ散らかされていた。間違いなく、僕の服だった。

そそくさと服を着る。少しだけほっとしたところで、尻の内側にある違和感に気がついた。何かを擦りつけたような、そんなしびれ。

(何だろう? これ……)

どうにも気になる。でも、痛みがあるわけではない。

落ち着かないけれど、一旦、意識の外に追いやって、部屋を出ることにした。

扉を出た瞬間、隣の部屋から物音が聞こえてきた。おそらく、リビングかキッチンだろう。僕の他に、誰かがいるのは確実だ。

緊張と未知の恐怖に強張る体を解すように、僕は小さく深呼吸をする。覚悟が決まったところで、隣室に繋がる扉を開ける。

「あ! おはよう」

僕よりも背の高い男が、振り向いて笑顔を見せる。目鼻立ちのはっきりしている、いわゆるイケメンだった。二枚目の若手俳優にでもいそうな雰囲気がある。おそらく、この家の主だろう。右側にあるカウンター型のキッチンから、二人分のカップをテーブルに持ってくるところだった。

「おはよう、ございます……」

僕は、反射的にそう返していた。

栗色の髪の見覚えのない男。それも、自分より若いだろう彼を前に、僕は必死で記憶を掘り起こそうとする。最近、入社したばかりの後輩か、それとも取引先の誰かか。いずれにしても、僕の記憶の中にはいない人物だった。

「何で、そこで突っ立ってるのさ? こっちにおいでよ」

笑いながら、男が声をかけてきた。

彼は、部屋のほぼ中央にあるテーブルの向かい側に座っている。何気ない日常風景のはずなのに、ドラマのワンシーンのように思えてしまった。彼の雰囲気が、そう思わせるのかもしれない。

混乱する中、僕はその場から動けなかった。彼が誰なのか。ここがどこなのか。そもそも、なぜ僕がここにいるのか。疑問だらけで、上手く思考がまとまらない。おまけに、頭痛はまだ居座っている。

「朝飯作ったから、一緒に食べようぜ」

と、彼がにこやかに誘ってくる。

テーブルの上に視線を向けると、二人分の朝食が準備されていた。出来立てなのか、白い湯気が立っている。

どうしようかと逡巡する間もなく、僕の腹が大音量で鳴った。

「あ……」

気づいた瞬間、恥ずかしくて顔が熱くなる。

(マジか……。この状況でも腹減るとか、どんだけだよ)

僕は、内心、自分にツッコミを入れた。穴があったら、すぐにでも入りたいくらいだ。

「あっはは、体は正直ってか! 悩むのは、腹ごしらえしてからでもいいんでない?」

豪快に笑ったかと思うと、彼は優しくたずねてくる。

この状況で断るのも何だか気が引けて、僕はご相伴にあずかることにした。彼の対面に座ると、ほかほかのご飯と形のきれいな卵焼きとしじみのみそ汁が、僕を待ち構えていた。

「……いただきます」

緊張しながらつぶやいて、僕は食事に手をつける。

朝食は、どれも優しい味わいで、二日酔いの僕にはとてもありがたいものだった。

「めっちゃ、美味そうに食べるじゃん」

と、対面にいる彼が、優しい微笑みを浮かべている。

「……っ! 何だか、がっついてるみたいでみっともないですよね。すみません」

急に恥ずかしくなった僕は、進む箸を止めて頭を下げた。

「いや、別にいいって。ただ、佳晴《よしはる》さんが、元気になったみたいでよかったなって思ってさ」

彼はそう言って、卵焼きを一切れ口に入れた。

(……ん? 名前、呼ばれた?)

彼の今の発言に、僕は少し引っかかった。

「あの……どうして僕の名前、知ってるんですか?」

箸を置いて、僕は目の前の男に問いかけた。

少し、警戒しているような声音になってしまったかもしれない。でも、それもしかたがないだろう。面識のない人物なのだし、名前を教えた記憶もないのだから。

「あれ? もしかして、覚えてない? 昨日の夜、あんたが教えてくれたんだぜ? 相馬《そうま》佳晴さん」

「え? 僕が教えた……?」

予想していなかった事に、僕は愕然とする。

「ちなみに、俺は相沢《あいざわ》竜希《たつき》でーす」

よろしくと、彼は自己紹介した。

(確かに、聞いたことがあるような……?)

そう思って、昨日の事を思い返してみる。

昨日は、仕事から帰ってきて、自宅近くにある『篝火《かがりび》』というバーを訪れた。帰宅後、篝火に行って一杯引っかける、それがここ最近の僕の楽しみだった。

店内は、落ち着いた雰囲気で、ついつい長居してしまう。確か、昨日も一杯だけのつもりが、結構な数のグラスを空けていたような気がする。

「――っ!」

記憶を漁っていると、急に鋭い痛みがこめかみ辺りに走った。僕は小さく呻いて、反射的に左手を頭にやる。

「大丈夫かよ!?」

と、目の前の彼が心配そうに声を上げた。

「だ……大丈夫、です。二日酔いなだけで……」

無用な心配をさせないために、僕はわざと明るく振る舞った。つもりだった。でも、結果としては、彼――相沢さんの表情は、ほとんど変わらなかった。

失敗したかとも思ったけれど、どうしようもできない。今は、痛みに耐える方が先決だった。

目を閉じて深呼吸を繰り返す。しばらくすると、痛みは消えていった。

「本当に大丈夫?」

相沢さんの気遣う声で、僕はゆっくりと目を開ける。

「ええ、もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」

申し訳程度に謝罪して、僕は残っている料理を平らげる。

ごちそうさまでしたと告げると、相沢さんは真顔で、

「ねえ、本当に何も覚えてないの?」

「すみません。篝火で飲んでいたのは、かろうじて覚えてるんですけど、それ以上の事は……」

言葉を濁して、僕は目を伏せた。

昨日の夜、いったい何があったのか、知りたい気持ちはある。でも、実際に聞くのは怖かった。自分が、何か酷い事をやらかしてしまっていたらと思うと、気が気ではない。

「そっか、なるほどね……」

そうつぶやく相沢さんの声は、意外にも明るかった。何かを思案しているようにも聞こえる。

「じゃあ、俺の部屋で、あんな事やこんな事をした記憶もないわけだ?」

挑発するような、揶揄《からか》うような彼の声音に、僕は反射的に視線を向ける。

「……あんな事やこんな事?」

どこか不穏な響きに、無意識に警戒してしまう。

「ああ。俺的には、めっちゃ濃密な一夜だったんだけど?」

と、相沢さんは、わずかに目を細めて僕を見つめてくる。

ねっとりとした視線に、一瞬、呼吸ができなくなった。初めて向けられた視線のはずなのに、僕は········。彼に見つめられているだけなのに、腹の奥底が疼き出した。それに引っ張られるように、体が火照り、息が荒くなる。

(な、んで? こんな感覚、知らない……。何だよ、これ!?)

訳がわからなくて、僕は混乱する。

「へえ? これだけで、そんな反応するんだ? ふふっ、かーわいい」

興味深いと、彼がつぶやいた。

その低めの声とちらりと見えた舌先に、僕の下半身がひくりと反応した。

「貴方……僕に、いったい何をしたんですか!?」

荒い息を繰り返しながら、僕は相沢さんを睨みつける。

けれど、思っていた効果はなかったらしい。

「特には何も? 強いて言うなら、昨夜は熱い夜だったってことだけかな」

と、相沢さんは、涼しげな笑顔で言った。

その爽やかさの中に、妖艶な色が混ざっているのを、僕は感じ取っていた。一瞬、脳裏に本性をさらけ出した彼の姿が写る。

「あ……や……いや、だ……!」

僕は、うわ言のようにつぶやいて、熱を帯びる体を引きずって立ち上がる。

その間、相沢さんは何も言わず、観察するように僕を眺めている。

(何だよ、これ……?)

彼の視線と声に、知らないはずの記憶に、僕の体は昂ぶっていく。自分が自分ではないような気がして、怖い。

「もしかして……俺の事、煽ってる?」

小首をかしげて、問いかけてくる相沢さん。口角を上げ、舐めるように僕を見る。

穏やかな物言いなのに、どことなく危険な香りがする。

「そ、んなこと……っ!」

ないと断言はできなかった。のどが詰まり、言葉が出ない。

(このままじゃ……本気でやばい!)

そう思った僕は、視線の呪縛を断ち切るように目を閉じた。一瞬だけれど、燻った熱が落ち着きを取り戻したような気がする。

「すみません! ごちそうさまでした!」

目を開けた僕は、相沢さんから視線をはずして早口でそう言った。

「え? あ……」

彼が、何かを言いかけていたけれど、構っている余裕はない。部屋の入り口付近に立てかけられていた荷物を持って、僕は足早にその場を後にした。

あのままずっと、あの場所にいたら、確実に彼のペースに流されていただろう。それほど妖しい雰囲気が、室内を満たしていた。

玄関を開けると、手すりがついた廊下に出る。見覚えのある色の手すりだったけれど、気にしている余裕は僕にはなかった。早くこの場所から逃げたい、それだけだった。

廊下を進み、階段を駆け降りる。段差を降りる度に、服が敏感な肌をさわさわとなでていく。その感触に反応して、僕自身が反り立っていくのを自覚した。

「くそっ……!」

収まらない劣情に嫌気が差し、悪態をついた。

地面に降り立ち、正面を向いたところで愕然とした。目の前には、見慣れた駐車場と僕の車がある。

「う、そ……だろ?」

振り向くと、自宅があるアパートだった。

目が覚めた時から今まで、見ない振りをしていた見覚えのあるもの達が、現実を容赦なく突きつけてくる。

自宅が目と鼻の先にあるというのに、こんな失態を犯してしまった。その事実に、僕は打ちのめされていた。一階にある自宅に向かう足取りが、とても重い。

自室に着くと、疲労感が一気に押し寄せてきた。着替える気力もないまま、ベッドに倒れ込む。

僕の手は、無意識に下半身に伸び、直に自分自身に触る。それをきっかけに、昨夜の記憶が断片的に蘇る。

篝火の店内。空のカクテルグラス。ウェイター姿の相沢さん。薄暗い彼の部屋。彼の息遣い。

『……イっちゃえ』

ふいに、相沢さんの低く甘い声が、脳内にこだました。

「……っ! くっ……!」

無意識に記憶していた声にうながされ、僕は呆気なく果ててしまった。

息を整えつつ、後始末をする。

「どうして……」

つぶやいたけれど、それは誰に向けたものだったのか。続く言葉が言えないまま、僕は静寂が包む室内で肩を落とす。

どうして、彼の誘いを受けてしまったのか。流されるまま身を委ねて、記憶を飛ばして、触れられていないのに欲情して――。

深いため息とともに、後悔の念が押し寄せる。けれど、緩急をつけて僕自身を追い詰める彼の指の動きが脳裏に浮かぶ。手でされただけで達してしまったのは、もしかしたら、初めてかもしれない。

「……っ! また……!」

思い出しただけで、僕自身が緩く勃ち上がる。こんな事、今まで一度だってなかったのに。

(くそっ! な、んでっ……こんなに反応してんだよ!)

心の中で悪態をつきながら、熱を逃がすように自身に触れた。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • プライベートレッスン~大人の恋愛講座~   第18話 さいかいの篝火

    翌日から、僕は篝火通いを再開した。扉を開くと、マスターと理沙さんが以前と変わらずに出迎えてくれた。もちろん、竜希も。いつもの席でチャイナブルーをオーダーすると、竜希がそつなくカクテルを作る。その姿が本当にかっこよくて、思わず見惚れてしまった。「お待たせいたしました」声とともに、鮮やかな青色のカクテルが僕の目の前に置かれた。「ありがとう。それにしても、たつ……相沢さんは、本当に手際がいいですよね」竜希と言いかけて、慌てて言い直した。「ありがとうございます。一応、これで生活してますので。それより、今、名前で呼ぼうとしたでしょ?」と、喉の奥で笑う竜希。「しかたないだろ? まだ、切り替えに慣れてないんだよ」声を抑えて抗議する。「でも、一線を画したいって言ったのは、佳晴さんですよ?」「それは、そうだけど……。なんか、ずるいよな。貴方は、どっちの時でも変わらないんだから」「俺は、こういうスタンスでやらせてもらってますので」ドヤ顔で宣う竜希に、少しだけ負けた気分になる。(でも、竜希が僕に沼ってるのは、事実だもんね)と、僕は密かにほくそ笑む。「佳晴さん? どうかしました?」小首をかしげる竜希に何でもないと言って、グラスを傾ける。爽やかな香りが、秘密を分け合う共犯者のように感じた。何か話したそうな竜希だったけれど、他の客からのご指名が入った。相沢相談所は、今日も盛況のようだ。竜希の背中を見送っていると、「お久しぶりですね」低く静かな声が聞こえた。振り向くと、いつの間にかカウンター越しにマスターがいた。「本当にご無沙汰してしまって……。その節は、お世話になりました」テーブルにつきそうなほど、深く頭を下げる。「いえ、私は何も。また、お客様がこうして来てくださった。それだけでは

  • プライベートレッスン~大人の恋愛講座~   第17話 辛口カレーと甘いキス

    「うん、美味い」と、竜希は満面の笑みで言った。ほっとして、僕もカレーを食べ始める。僕史上、最高の出来に仕上がっていて、思わずにんまりした。「自分で作るより、確実に美味いわ」竜希が、大絶賛で頬張っている。「褒められるのはうれしいけど、普通に作っただけだよ?」「謙遜すんなって。マジで美味いんだから。でもさ、じゃがいも、入れてないんだな」「ああ、うん。そういえば、今までじゃがいもを入れた事なかったかも」指摘されて、無意識にじゃがいもを避けていた事に気がついた。幼い頃から、カレーにじゃがいもが入っていないことが当たり前だったからだろう。「竜希は、じゃがいも入れる派なんだ?」「あー……気分によるけど、基本的には入れるかな」思案しながら、竜希が答える。「でも、入れない方が好きかも。このくらいの辛さが、ちょうどいいんだよね」「よかった。多めに作ったから、ルウだけでよければ、おかわりしても大丈夫だよ」僕が言うと、竜希は瞳を輝かせてうなずいた。「それにしても、佳晴さんって料理上手なんだな」「自炊するから、それなりにはね」「カレー以外も食いたいなー」期待するようなまなざしを向けられ、僕は「そのうちな」とはにかむ。まさか、こんなに好評だとは思っていなかった。今までは、自分の好きなように適当に作っていたけれど、今度からは竜希のためにも、もう少しきちんと作ろうと思った。「でも、本当に僕なんかが作る料理でいいの?」ふと、よぎった不安を口走る。「……なよ」それまでもりもりとカレーを食べていた竜希は、手を止めると沈んだ声でつぶやいた。「え……?」よく聞こえず、僕は少し身を乗り出すように聞き返した。「『僕なんか』なんて言うなよ。悲しくなるだろ。他の誰でもない、俺が、あんたの手料理を食いたいの!」

  • プライベートレッスン~大人の恋愛講座~   第16話 爽やかな朝は君の隣で

    まどろみの中で、僕は眩しさを感じた。ゆっくりとまぶたを開けると、カーテンの隙間から爽やかな朝の光が差し込んでいる。起き上がろうとして、胸の上の重みに気がついた。隣を見ると、竜希が僕を抱き枕にしていた。(そういえば、竜希の部屋に泊まったんだっけ)と、気持ちよさそうな竜希の寝顔を見つめる。「ん……よしはるさん……」「ふふっ。どんな夢を見てるんだか」微笑みながら小さくつぶやいて、彼を起こさないようにそっとベッドから抜け出す。極力、物音を立てないように気をつけながら、着替えを済ませる。「ふぁ……あれ? もう、あさ……?」寝ぼけたような竜希の声が聞こえた。「おはよう、竜希。僕はそろそろ起きるけど、竜希はまだ寝てていいよ」言いながら、僕はベッドに近づいた。竜希の額に、軽くキスを落とす。「ん……冷蔵庫にサンドイッチが入ってるから、食べていいよ」竜希はくすぐったそうに目を細めると、ぽやっとした笑みを浮かべて言った。「サンドイッチ? もしかして、昨日の夜、先に寝てていいって言ってたのって――」僕が小首をかしげると、彼は軽くうなずいた。「朝から飯作るのって、面倒だったりするじゃん? 佳晴さんには、ゆっくり寝ててほしかったから」そう言って、竜希はもう一度あくびをする。「ありがとう、遠慮なくいただくよ」「うん。いってらっしゃい、おやすみぃ……」そう言うと、竜希はまぶたを閉じてすぐに寝入った。僕は小声でおやすみを告げると、愛おしい彼の頭を優しくなでて部屋から出た。「冷蔵庫は、と……」つぶやきながらキッチンをのぞくと、すぐ近くに黒い冷蔵庫が鎮座していた。扉を開くと、棚の中央にサンドイッチの皿があった。それとコーヒー牛乳のパックを取り出

  • プライベートレッスン~大人の恋愛講座~   第15話 色鮮やかな甘い夜

    「美味そう……」つぶやくと同時に、僕の腹が鳴った。「冷めないうちに食おうぜ」待ちきれないとばかりに、竜希がうながす。僕は何食わぬ顔でうなずいて、食卓についた。幸い、僕の腹の音は、彼には聞こえていなかったようだ。二人分のミートソースパスタとコーンスープからは、美味しそうな湯気が立っている。僕達はいただきますと言って、早速、食事に手をつけた。コーンスープのコクと甘味が、食べ応えのあるパスタにちょうどいい。「うん、美味い。さすがだね。短時間で、二品も仕上げるんだから」「サンキュー。でも、コーンスープは、市販のやつだよ。あの短時間で、パスタ作りつつ、ここまでなめらかにするのは、さすがに無理だって」と、謙遜する竜希。それでも、僕からしてみれば、すごい事には違いない。もし、同じ状況で僕が作ったら、二倍とはいかないまでも時間がかかると思う。「ごめん、佳晴さん」突然、竜希が頭を下げた。「え? いきなり、何?」理由がわからなくて、僕は小首をかしげた。「いや……明日、佳晴さん仕事だろ? なのに、無理させちまったから……」うなだれる竜希の姿は、どこかしょんぼりとした大型犬を彷彿とさせる。それが、何だかかわいらしいと思った。「ちょっとだるいけど、大丈夫だよ」だから謝らなくていいと言い置いて、僕はパスタを頬張った。「じゃあ、せめて、佳晴さんの家の場所を教えてよ」送らせてほしいと、彼は真摯に告げる。「……あれ? 言ってなかったっけ? 僕の自宅、このアパートの一階にあるんだ」「……へ?」素っ頓狂な声を上げ、竜希が目を丸くする。「なんか、ごめん」僕が謝ると、竜希は脱力したように微笑んだ。「いや……それなら、遅くなっても大丈夫だよな?」「え、いや、でも……明日、仕事だし……」「えー? いいじゃん。もう少し、佳晴さんと一緒にいたいんだって」

  • プライベートレッスン~大人の恋愛講座~   第14話 熱く求め合う情愛

    「挿れるよ」宣言した直後、相沢さんはゆっくりと僕の中に挿入ってきた。久しぶりだからか、内側から押し広げられる感覚がある。でも、痛みは、まったくなかった。「やば……久しぶりの佳晴さんの中、あちぃ……。このまま、溶けそう」言いながら、彼は僕の中に自身を沈めていく。「相沢さんの、おっきぃ……」切なかった腹の中が、少しずつ彼で満たされていく。言いようのない心のざわつきも、彼のぬくもりで溶かされていった。彼を根元まで迎え入れた直後、「あ゛ぁああ……っ!」僕は呆気なく達してしまった。腹の上に広がる白濁が熱い。でも、僕自身はまだ勃ち上がったままだ。「挿入れただけで、イッちゃった?」そう言って微笑む彼に、僕は荒い息をつきながらうなずく。「かわいい。でも、まだ終わりじゃないぜ? もっと、俺を感じてよね」と、相沢さんは緩い抽挿を始める。「な゛っ……!? だめ! イッた、ばっか……なのにぃ!」「だから、いいんだろ?」妖艶に言って、相沢さんはゆっくりと腰を動かす。全身を駆け巡る甘いしびれに、僕は喘ぎ悶える。「好きな人とのセックスって……こんなにイイもんなんだな」相沢さんが、恍惚な表情でつぶやいた。その言葉には、同意しかない。身も心も繋がる心地よさは、本当に久しぶりだった。「あいざわ、さん……んぁ……すきぃ……」「俺も好きだよ、佳晴さん」睦言を交わしながら、キスをする。舌を絡め、互いの唇を夢中で貪る。抽挿は次第に速くなり、僕も無意識に腰を動かしていた。「んっ……んふぅ……ぁっ&h

  • プライベートレッスン~大人の恋愛講座~   第13話 熱く甘い吐息

    「ふ……っ……んぅ……ぁ……ん」甘い吐息が漏れる。我慢しようとしても、止められなかった。彼の舌が、ぬらりと僕の舌を絡め取る。かと思えば、舌先でちろちろと舐められる。僕もどうにか応えようとするけれど、上手くいかず彼のペースに飲まれてしまう。(相沢さん……)好きが溢れて、僕は彼の背に手を回した。頭の中がじんわりとしびれてきて、腹の奥が疼き出す。おまけに、足の力が抜け、立っているのがままならない。しがみつくように、手に力を入れた。「――っ!」彼の吐息を感じた直後、キスをしたまま体の向きを変えられ壁に押しつけられる。「ん゛ぅ……っ!」吐息まで飲み込まれそうな深いキスに、一瞬、息ができなくなる。執拗に舐め回され、舌が麻痺してくる。けれど、同時に敏感にもなっていて、彼の舌が動く度に僕自身が小刻みに動いてしまう。苦しくなって彼の背中を軽く叩くと、ようやく解放された。「っは……はぁ、相沢さん……どうしたの?」僕は息を整えながらたずねる。「悪い……。我慢してたんだけど、限界でさ。……嫌だった?」不安そうにたずねる相沢さんに、僕は首を横に振った。「嫌じゃないよ。むしろ、興奮した」少し恥ずかしいけれど、僕は素直にそう言った。以前、『店では、指一本触れるな』と、彼を突き放してしまった。あの時と今とでは、まるで状況が違う。でも、相沢さんは、ずっと約束を守ってくれていた。そんな彼をとても愛おしく思う。同時に、バーテンダー姿の彼に唇を奪われるという非日常感に欲情してしまった。「ふーん? じゃあ、これからは、店でも触っていいんだな?」確認するような口ぶりで、相沢さんが妖艶に微笑む。「あ、いや、今まで通り

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status